貯水槽改修工事とは、どのようなものなのか?実際の工事を例に説明させて頂きます。
貯水槽とは、一般的に「受水槽」と「高架水槽」の二種類をまとめて呼ぶ名称であり、文字通り水を貯めておくためのタンクの事を指します。では「受水槽」や「高架水槽」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
通常の戸建てでは、上水施設から送られてくる水がそのまま蛇口から出てくる状態です。しかし、大規模な、特に高層マンションなどでは、重力によって高層階では水圧が確保できなかったり、場合によっては一切水が出なかったりすることがあります。
その対策として、貯水槽が用いられます。
まず、上水施設から送られてくる水を、1階や地下に設置されている受水槽に貯めます。その受水槽から屋上などに設置されている高架水槽にポンプで送り、高架水槽から重力を利用して階下に水を送ります。 こうすることで、階に関係なく安定した水圧が確保でき、また数トン単位で水を貯めておけますので、同時使用にも断水にも強いシステムとなっております。
上の2枚の写真が、今回改修工事を行ったFRP製の受水槽と高架水槽です。比較的小規模なサイズですが、それでも受水槽は3トン。高架水槽は2トンの容量があります。 今回の改修工事の内容としましては、貯水槽外面のFRP補強と、藻を発生させないための特殊な塗装を行います。それと同時に、架台やパイプなどの鉄部にも防錆塗装を行います。
まずは外面の汚れを落とし、下地を作るために耐水ペーパーで表面を粗します。
長年紫外線にさらされていたこともあり、チョーキングやガラス繊維の露出もありましたので、下地処理は徹底的に行います。塗膜の剥がれや浮きが発生する原因は、大抵下地処理の不足によるものです。
完成直後こそ、下地処理に掛けた手間や時間は現れませんが、時間を重ねるにつれ、この下地処理が大きな違いとして表れてきます。
次は、全面にFRP用のポリエステル樹脂を塗布します。
このポリエステル樹脂は、通常であればガラスマットに浸透させることにより、網目状であるガラスマットを一枚の防水層に仕上げるために使用するのですが、今回は粉体化の防止や露出したガラスマットを固定するために塗布します。
硬化後は、硬質でありながら滑らかな仕上がりとなりますので、強度も向上し、またこれから塗布する特殊な太陽光線遮断塗料の効果を高めるためにも役立ちます。
ポリエステル樹脂の塗布が終わると、次はガラスマットの貼り付けに移ります。
通常であれば、貯水槽の補修においてガラスマットを貼るほどの補強は必要ありませんが、こちらの受水槽の場合、以前に一度劣化によって受水槽上部が破損し、部分補修を行った事がありましたので、今回一式の改修工事を行うに当たり、上部全面の補強を行うことになりました。
上部全面にFRPを2プライ(2層)貼り終えた後の状態です。うっすらとボヤけたといいますか、厚みが増していることがお分かり頂けるでしょうか。
これを行うことにより、部分補修を行った場所も他の部分と一体化し、強度が増すのはもちろんのこと、雨水などが混入する可能性は無くなります。
そして、こちらが太陽光線遮断塗装の下塗りを終えた受水槽となります。
上塗りをしていないこの状態で、理論的には太陽光線の透過率は無塗装時の1/400にまで激減します。
当然、裏面も丁寧に塗装しております。
貯水槽は6面点検が鉄則であり、太陽光線が当たる当らない、見える見えないは関係なく、全面を同時に行うことでバランスの良い状態の維持が可能となります。
もちろん、面のみではなく、角のフレームやボルト、パイプ取合いという細部も丁寧に塗装済みです。なお、この塗料は高い錆止効果も有しております。
そして上塗りを行います。
接続されているパイプや架台などの鉄部は、エポキシ系錆止めを下塗りとし、ポリウレタン系耐候塗装で仕上げました。
アイボリー系の場所が遮光塗装で、グレー系の場所が耐候塗装となっております。
こういった設備の塗装は、アイボリーやグレー、ホワイトといった非常にオーソドックスな色の組み合わせが選ばれる傾向がありますが、グリーン系やブルー系など、他の色もご用意しております。
以上で完成となります。
上塗り後の太陽光線の透過率は、なんと0.000です。つまり、一切紫外線を通しません。
改修時はもとより、新設時にもこういった対策を行っておくと、耐用年数は伸びますし、何よりも常に衛生的で綺麗な水が確保できます。
ステンレス製の貯水槽とは比べ物にならないほど安く、それでいて同等の遮光性能を有する貯水槽はいかがでしょうか。
なお、工程の推移がわかりやすいよう、写真は1階の受水槽に固定しましたが、屋上の高架水槽も同時進行で完成しております。
水道設備が受水槽と高架水槽の二種類からなっている場合、受水槽の設置場所が地下で、日光が当たらないというような事がない限り、両方同時に改修工事を行うことがベターです。片方だけ施工しても、中の水は流れていますから、藻の発生防止には繋がりません。